Null安全

Null 安全について記載します。

ゴール

以下について理解していること。

  • Null 安全が必要な背景
  • スマートキャスト
  • 安全呼び出し演算子 (?)
  • 強制呼び出し演算子 (!!)
  • エルビス演算子 (?:)
  • 安全キャスト

null って何よ

  • null そのものの意味は、"空" とか "無" とか。ドイツ語らしい。
  • 変数に null を入れると、その変数はどこも参照していない (null を参照している) 状態になる

  • null を参照しているオブジェクトのメソッド呼び出しは例外 (NullPointerException) を発生させる

    • NullPointerException になるのが期待動作ということは基本的になく、概してプログラミングのミスで発生する

  • Java のコードで NullPointerException が出る例は以下のような場合。

    • 以下、Java のコード例には「Java」と記載 (特に注釈がなければ Kotlin のコード例)

Java

String s = null; // null を入れる
s.toUpperCase(); // NullPointerException 発生

従来の null との戦い

  • NullPointerException と null チェック
    • NullPointerException が起きないように、

      変数を参照する前に変数が null でないかを確認する必要が生じることがしばしばある
    • 実はきっちり対処しようとするとそれなりに手間

Java

// 上述のコード例における NullPointerException を回避する

String s = null;
if (s != null) { // null じゃないことを確認する
    s.toUpperCase();
}
  • ところが、
    • Java の言語仕様上、変数は基本的に全て null になりうる
    • その点だけ捉えると全ての変数について使う前に null チェックするのが妥当か…？
    • 文脈上、絶対に null でないことが確定しているような場合はチェックするべき？

Java

String s = "hoge";
// s は明らかに null じゃないのでチェックしないで良さそう

String ss = Fuga(); // 文字列か null を返す関数だとしたら
// ss は要チェック

  • チェックの要・不要を判断するのはプログラマ → 往々にして間違いが起こり得る

  • アノテーションによる null 回避という案

    • Android Java では @NonNull のようなアノテーションをメソッドに付与できる
    • @NonNull をつけておくと、コンパイル時にある程度 null にならないことをチェックできる
    • しかし基本的に無力
      • 表明するためのものでありドキュメンテーションの色合いが強い
      • IDE は @NonNull なところに null になりうる変数を渡すと警告してくれる (こともある)
      • 制約に違反するコードがあってもコンパイルエラーにはしてくれない

Java

// アノテーションによって本メソッドは null を返さないことを表明する
@NonNull
String Fuga() {
    // ...
    return null; // しかし null は返すことはできてしまう (コンパイルエラーではない)
}

// null になりうることも表明できる
@Nullable
String Piyo() {
    // ...
}

null 安全

  • そんなわけで null にはさんざん苦戦してきた
    • Kotlin では、「null になりうるか」「null になりえないか」を「型」で区別している
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    // たとえば、以下のコードはコンパイルに失敗する
    // String は「null になりえない」型であるから

    val s: String = null // error: null can not be a value of a non-null type String
    //sampleEnd
}

fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    // 「null になりえる」型を宣言するためには、? を補う
    // 以下はコンパイル OK

    val s: String? = null

    // ただし、「null になりえる」の状態のままではメソッド、プロパティの呼び出しができない
    // error: only safe (?.) or non-null asserted (!!.) calls are
    // allowed on a nullable receiver of type String?
    println(s.uppercase())

    // たとえ値が入っていても同様
    val ss: String? = "hoge"

    // error: only safe (?.) or non-null asserted (!!.) calls are
    // allowed on a nullable receiver of type String?
    println(ss.uppercase())
    //sampleEnd
}
  • スマートキャスト
    • 「null になりえる」の状態では、メソッドやプロパティが呼び出せない
    • メソッドやプロパティを呼び出すためには、「null になりえる」の状態から「null になりえない」に変換が必要
    • たとえば if 文による null チェックで対象が「null になりえない」ことが分かれば良い
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    // スマートキャストを使った「null になりえる」から「null になりえない」への変換

    val s: String? = "hoge" // 「null になりえる」状態

    if (s != null) {  // null チェックすることで s は「null になりえない」になる
        println(s.uppercase())  // メソッドが呼び出せる
    }
    //sampleEnd
}
  • 安全呼び出し
    • 対象が「null だったら null、null じゃなかったら中身」を使うやり方
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    // ? をつけると「null になりえる」型
    val s: String? = "hoge"

    // 通常、このままでは s のメソッドを呼べないが、
    // ? を補うことで呼び出せる
    val u = s?.uppercase()
    println(u)

    // 上記は以下と同じ処理
    val up = if (s != null) {
        s.uppercase()
    } else {
        null
    }
    println(up)
    //sampleEnd
}
  • メソッドの引数に「null になりうる」を渡す場合
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    // 以下の関数の引数の型は「null になりえない」という記述
    fun greet(name: String) {
        println("hello, $name!")
    }

    val s: String? = "hoge"
    greet(s)  // コンパイルエラー

    if (s != null) {
        greet(s)  // これなら OK
    }
    //sampleEnd
}
  • 上記のような例の場合に、let を用いることができる
    • let は任意の型とラムダ式を引数にとり、ラムダ式を呼び出す
fun greet(name: String) {
    println("hello, $name!")
}

fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val s: String? = "hoge"

    // コンパイル OK
    // s が null ならラムダ式は呼び出されない
    s?.let { greet(it) }
    //sampleEnd
}
  • 強制呼び出し
    • !! を使うと「null になりうる」を「null になりえない」に強制的に変換する
    • 中身が本当に null だったら NullPointerException になっちゃうので、基本的に使わないで済ませたい
    • 対象の変数が 100%ヌルでない ということが分かっているなら使っていいかもしれない
    • が、そういうときにもあえて強制呼び出しオペレータを用いる必要はなく、もっと良い書き方ができるはず
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val s: String? = "hoge"
    println(s!!.uppercase())  // コンパイルOK、実行も可能
    //sampleEnd
}

fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val s: String? = null
    println(s!!.uppercase())  // コンパイルOK、だが実行時に例外 (NullPointerException) を吐く
    //sampleEnd
}
  • エルビス演算子
    • null のときに返す値を指定できる
    • ちなみに三項演算子（a > 0 ? "1以上" : "0以下"）とは別物
      • 三項の方はKotlinでは使えない
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val s: String? = null

    println(s ?: "null です！") // null だったら「null です！」を出力

    // 以下と同義
    if (s != null) {
        println(s)
    } else {
        println("null です！")
    }
    //sampleEnd
}
  • 安全キャスト
    • 型をキャストする際にも ? が使える
    • キャストに失敗したときに例外ではなくて null が返る
fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val a: Any = "string" // String を Any に入れる
    println(a as String) // String へのキャストは OK ("string" が表示される)
    println(a as Int) // java.lang.ClassCastException: java.lang.String cannot be cast to java.lang.Integer
    //sampleEnd
}

fun main(args: Array<String>) {
    //sampleStart
    val a: Any = "string" // String を Any に入れる
    println(a as? String) // String へのキャストは OK ("string" が表示される)
    println(a as? Int) // null が表示される
    //sampleEnd
}

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